コンサート中に指が消えてしまったピアニスト

ハンガリー出身のピアニスト、ジョルジュ・シフラが初めて来日したときのことである。コンサートの最中、聴衆の目の前で、突然シフラの長い指が消えてしまった。
それは、リストの「超絶技巧練習曲」を弾いているときのことだった。より正確にいえば、手首から先の部分が、もやのように消えかかったのだという。
動体視力というのがある。動いている物を見る力のことだ。
たとえば、ピッチャーが投げる球を見ていたとしよう。100キロ、140キロとだんだん速度を上げていく。すると、だんだん球は見えにくくなるだろう。
仮に人間が300キロとか500キロとかの速度を出せたらの話だが、球はいつか見えなくなる。エエッツ!てな具合だ。
当日の演奏会場でも同じようなことが起きた。
シフラの指の動きがあまりに速かったので、人間の目には、微かにその動きがわかる程度だった。だから、まるでゴーストが弾く演奏のように見えたのだ。
人間が指を動かす速度は意外なほど速く、マジシャンが指を使うマジックの中は人間の目には捕らえられないほど速いのがタネというもある。
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