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「柴山拓郎のハモリ講座 第1回」〜きれいにハモルってどうしたらいいの?

アカペラっ!!!

 今日から全部で10回の連載が始まります。テーマは「メロ譜からカッコイイアカぺラコーラスを作り上げるHow to」です。連載が後半に差しかかる頃は、ちょうどクリスマスです。今年のクリスマスは、アカペラで仲間と思う存分ハモって過ごしましょう。

バプティスト教会で歌われるゴスペル ア・カペラといえば、黒人教会で歌われるゴスペルソングを思い浮かべますが、そもそもは、イタリア語のa cappella (聖堂風に)という言葉から来ています。

西洋の聖堂(教会のことです)は、石造りで残響がとても長く、何世紀にも亘って、聖歌隊(クワイヤー)が清らかな歌声を響かせて来ました。

 この連載で取り上げるアレンジの方法も、実は、昔ながらのア・カペラ合唱曲の作曲技法とさほどの違いはありません。現在私たちがごく自然な気持ちで受け入れている音楽の基本的な決まり事は、すでにバロック音楽の時代までには確立していたんです。でも、この連載の目的は、理論的な基本をふまえながら、どんな風にしたら、黒人グループが歌うような、イケてる「ア・カペラ」曲を作れるのか、ということです。

 連載をよ〜く読んで、うちらはちょっと他のグループとはちがうんだぞ、なんてキメラレるように、がんばってみましょう。

 時には、ちょっとややこしい、難しい話しもする必要が出てくると思います。でも、ハッキリ言って、理論あっての音楽です。ソウルはその後です。たくさんの人に分かりやすいように説明しますので、理論なんて聞いただけでウンザリなんて言わないでがんばってみましょう!!

音階のリストラ

リストラなんて縁起でもないですが、今回は1回目なのでざっくりとした話をします。まずはハモルってそんなことだったのかあ、ということがわかっていただければ幸いです。

さっき、バロック音楽の時代には現在の音楽理論が確立していた、と言いました。今日、音階といえば「長調」「短調」っていうのが当たり前なんですが、中世〜バロックの時代、実に7種類もの音階を使っていました。それを教会旋法(=モード)と言います。バロック時代になって、7つの音階(旋法)に含まれていた「長調」と「短調」の音階だけが生き残り、残りの音階はリストラの憂き目にあいました(注1)。

 マイルス・デイヴィスが復活させるまで(注2)、長いこと眠りについていたのです(よく、マイルスのサウンドはモーダルで良いよね〜、なんて言いますけど、そういう昔のモードを復活させたサウンドだ、っていうことです。難しい表現で言うと、マイルスのサウンドは、中世の教会旋法に基づいた音組織のカラーだから、良いよね〜、なんていうことになります)。

 じゃあなんで「長調」「短調」に落ち着いたのか、和声学(和音の理論)の仕組みに一番適した音階だったからです。そして、その和音の理論こそ、ハモルっていうことの原点なんです。 ちょっと、ハ長調の音階を見て下さい。(図1-1)ちなみに上のよく見かける方がイタリア語で下がコードネームでよく使う英語、その下のカタカナが日本語です(イロハニホヘトが、音名、ドレミファソラシドは、階名と言います。ドレミファは、フランス語から来ています。)よく見るとドレミファ、ソラシド、の音程関係が共通していることに気づきませんか?(図1-2)

図1-1
図1-1

図1-2
図1-2

ミとファ、シとドの間には、ピアノの黒鍵がありません。
図2
図2

それ以外の音の間には、たとえば、ドとレの間には、ド#、というように、黒鍵が挟まりますよね。両者をそれぞれ、半音、全音と言います(図2)。次に、ドレミファソラシドと続けてピアノで弾くなり、歌うなりしてみましょう。タダの音階ですが、力強く始めて、ソのあたりからだんだんゆっくりにして、ラシドあたりをたっぷり弾くと、音楽的に聞こえませんか?

 なんでかって言うと、「シの音は、とても不安定な音で、ドの音は、最も安定している音です。なのでシはドに上がって、落ち着きたいなあという気持ちにさせるんです。

 

 

 長調の音階を音楽的に演奏しただけで音楽的に聞こえるのは、安定感のある音(=ド)から始まって、もっと不安定な音(=シ)を通り、その後にまた安定感のある音(=ド)が戻ってくるからです。

図3 図3
 試しに、レの音からそのままピアノの白鍵だけで音階(図3)を始めてみましょう。レミファソラシドレです。なんか違和感がありませんか?

最後のドの音は、さほどレに進んで安定したいな〜というサウンドではないはずです。今度は、ファの音から始めてみましょう。ファソラシドレミファ。最後のミ→ファは、半音ですから、なんとなく安定しているんですが、最初の、ファソラシの間の、ラからシが離れすぎている感じで、おいおい、という気分になりませんか?

 結局、ドレミファ、ソラシド、っていう、全音・全音・半音、という間隔の列を、2回全音でつなげたものが、一番安定した音階として、定着しました(このハ長調になった音階をチャーチモードではイオニア旋法、もしくはイオニアンといいます)。

 次に、コード(和音)ですが、このハ長調の音階のそれぞれの音に3度の音程を重ねたもの、音階の隣の音を一つとばして重ねたものです。ドミソ、レファラ・・・・というふうになります。

図4 それぞれドミソ(左端)、レファラ(その隣)というようにルートから3度ずつ積み上げている
図4

 それぞれの和音の一番下の音を、根音(こんおん=ルート)と言います。ドミソならドが根音、レファラならレが根音になります。

和音の性格を決めるのに重要なのは、真ん中の音です。

ここで、ルートから、真ん中の音までの距離が、さっきの図4で見てみると、2通りのパターンがあることに気づくと思います。ドド#レレ#ミ、と、ドとミの間に半音が5つ分(両端の音も含めてです)あるタイプの和音、レレ#ミファと、レとファの間に半音が4つ分しかないタイプの和音の2種類です。
図

この、ドミソとレファラの和音の、ドとソ、レとラの音程の幅は半音8つぶんですので、同じです。このように、最初の真ん中の音までの半音の数が多いほうをメジャーコード、少ないほうをマイナーコードって言います。

図5 下からド・ミ・ソとなる
図5

そして、コードネームを書くときには、ドミソの和音(図5)はCとだけ書いて、「メジャー」の部分を省略しますが、レファラの和音は、Dmって、小文字の「m」を書きます。ドミソの和音はただのC(シー)、レファラは、Dm(ディーマイナー)と言うふうに呼びます。もう分かって頂けると思うんですが、Cのようなメジャーコードは、明るく、Dmのようなマイナーコードは、暗く聴こえると思います。
図6 下からソ・シ・レとなる
図6

図6をみてみると、ソシレの和音のまんなかに、ハ長調の音階で最も不安定な、シの音があります。和音の理論から見ると、ハ長調で最も安定している和音は「ドミソ」(図5)で、それを支配している和音は、不安定な「ソシレ」(図6)ということになるのです。

これは人間の心にある安定を求める気持ちと冒険を求める気持ちみたいなものなのです。安定が続くとついつい冒険を求めて安定した世の中を壊したくなる、しかし、また、冒険に疲れれば安定した世を求めたくなる。安定したい世の中を影で操る不安定な冒険心・・・・・というイメージでしょうか。

トニックくん、ドミナントくん  安定したドミソを「トニック(=音階の最初にあるもの)」と呼ぶのに対して、ソシレの和音の機能を、理論の世界では、「ドミナントの和音=(最初にあるものを支配しようとするもの)」って呼びます。ハモルことは、この、不安定な和音、安定した和音の連続をどう作るかなんです。安定しようと期待したときに、すす、っと裏切ったり、期待にそったり、という連続をつくって、聴く人をわくわくさせたり、ドキドキさせたりするということです。

ちょっと今日は、ざっくり、ということで、おおざっぱな話をしましたので、消化不良でも大丈夫です。 次回からはもう少しゆっくりじっくり話すので安心して下さいね。

 

(注1)正確に言うと、本当は7つだけではないんですけど、ここでは省略します。

(注2)もちろん、ジャズから派生している音楽でのことです。クラシックの作曲家の中には、もっと前にそういう昔のサウンドや、アジアのサウンドなどを取り入れて作曲する当時としては実験的な動きもありました。

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編著者: 柴山拓郎

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著者プロフィール

柴山拓郎 柴山 拓郎(作曲)
 1971年東京生まれ。ポピュラー音楽からテクノロジー音楽まで 幅広いジャンルの音楽を越境する現代音楽作曲家。2000年から『@ELISE』にてJ-POPのピアノ編曲なども数多くこなし、同ページではハモリ講座を執筆、アカペラのアレンジ法に関する音楽理論をわかりやすく解説する。

 97年東京音楽大学大学院修士課程修了。作曲を西村朗、池辺晋一郎、湯浅譲二、遠藤雅夫の各氏に師事。93年第62回日本音楽コンクールに、94年秋吉台国際作曲賞にそれぞれ入選。また、秋吉台作曲セミナーで、C・チェルノウィン、G・シュテープラー、K・シムの各氏に作曲を師事する。96年より 、作曲家団体「深新会」に所属し定期的に新作を発表。98年には、古楽器奏者と作曲家から成るグループ「アルコバレーノ」の結成に参加、以降毎年古楽器奏者と共に演奏会を企画、古楽器のための作品を作曲する。また、同年より、日本を代表する打楽器アンサンブル、パーカッショングループ72のメンバーとして、作編曲や 楽曲解説の執筆の他、J.ケージ、E.ヴァレーズ等の演奏にも携わる。2000年、オルガンのための「Monologue」が、松居直美氏によりオランダ各地で演奏された他、同年秋には、アムステルダム旧教会にて同氏によりCD収録された。邦楽器への取り組みも多く、二十絃箏のための「monody(1999)」をはじめとし、これまでに日本音楽集団、松村エリナ氏、真鍋尚之氏等からの委嘱を受ける。

 2001年5月にリリースされたトランペット奏者 曽我部清典氏のアルバム「トキノコダマ」に独自の視点で編曲したビートルズの「with a little help from my friend」が収録されている他、ピアニスト門光子氏のCD「風の記憶」に、「哀歌(monody)」が、武満徹、藤枝守、三木稔、西村朗、吉松隆ら日本を代表する作曲家の作品と共に収録されている。2002年春 M-A Recordingからリリース、同年レコード芸術準特選版に選定された。同氏の次作アルバム「東方逍遙」では、アジアのポピュラーソングを透明感のあるサウンドで編曲する他、新作が収録され、2003年レコード芸術準推薦版に選定された。

 美術や空間におけるサウンドデザインの活動も活発に行い、2005年 NPO法人 芸術資源開発機構とのコラボレーションで、埼玉県立近代美術館のためのサウンドインスタレーションをコンピュータプログラミングにより制作する。美術作家井上尚子氏とのコラボレーションは10年に及び、ICC、スパイラル、Bankart等における同氏作品への音響デザインを多数提供する。2006年からは同氏とのユニット「Air Plug」として活動を改めて開始し、福島現代美術ビエンナーレに作品を出展。

 2002年から東京電機大学 理工学部 情報システムデザイン学系アミューズメントデザインコース助手として「作曲・音楽文化研究室」を主宰。電子音響音楽等テクノロジーが関わった新しい音楽の表現研究や制作指導を、技術指導にとどまることなく「テクノロジー・アート・情報・社会」等の多眼的視点から捉えた授業やゼミを展開、後進の指導にあたっている。

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