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「柴山拓郎のハモリ講座 第2回」〜かっこよさの秘訣はブルーノート

宇多田ヒカルにしろ平井堅にしろ、最近の音楽って妙にカッコイイよね、って感じてるみなさん。

なんでカッコイイかっていうと、彼らは自分自身の歌い方をとことん追求して、独自の歌の「節」を作っているからですよね。その節が、彼らの作るメロディーやリズムとぴったり合うからです。
 だって、J-POP の流行の歌のメロディを、演歌みたいな歌い方をしたら、けっこう不思議な音楽になってしまうと思いませんか?

例えば、何でも良いんですけど、ケミストリーの歌を、都はるみ風にうたっちゃったりすると(そんなひとは珍しいと思いますが)、ちょっと変な音楽になっちゃいますよね。
 今日のテーマは、どうしたらカッコ良くアカペラ・コーラスを歌えるのか、です。

そこで、「ブルース」の話

 まず結論から言うと、今流行っているJ-POP や、アカペラコーラスは、少なからずアメリカ黒人音楽(ジャズとか、ゴスペルとかです)の影響を受けています。黒人音楽をたくさん聴いて、徹底的に覚えて、真似をするということです。

 どれくらい聴いたか、聴きこんだか、っていうのが、一番直接的な勉強になると思います。もちろん、楽譜をきちんと読んで、正確に歌ったり演奏したりっていうことは基本中の基本なんですが、音符には書ききれないような、細かいニュアンスやを作ることで、をどうやって音楽を表現するか、っていうことが、本当は大事なんです。

 今回はJ-POP をいくつか例にとって、どんなふうに黒人音楽の影響を受けているか、そのお陰で、どんなふうに歌がソウルフルになっているか、っていうことについて探ってみましょう。

 まず取り上げるのは、aiko のロージーです。この曲はハ長調です。ドレミファソラシド、というのが基本的な音階ですから、どこにも、#や♭がつかない、無印調です。
 なのに、aiko が歌っているメロディには、色んなところにミ♭が出てくるんです。

図1
図1

 (図1)良く見てみて下さい。「きっとどうあがいたって〜」っていうところの、「がい」という部分です。
 ここのところの和音は、コードネームで言うとDm7、レファラドの和音ですから、ミ♭はその和音を構成している音ではないですよね?。ここで aiko が歌っているこのミ♭の音が、アメリカ黒人音楽の原点である「ブルース 」という音楽の影響を受けています。

Shibataku ここがポイント!

 ブルースでは、ミは♭だよ、って楽譜に書いて無くても、なんとなくミの音に上がりきらないような、中間的な音程になるんです。

 それを楽譜に記譜するときに、ミ♭とミの中間の音というのはなかなか書きにくいし、それに、ピアノの鍵盤自体にそんな音はありませんから、通常、ミ♭を書いたりします。そういう中間的な音程になっちゃうサウンドを「ブルーノート」って言います。

 なんでそういう音程になっちゃうかっていうと、黒人音楽独特の感情の表現だったり、民俗学的な複雑な理由がからんでいるので、ここでは細かいことにまで触れませんが、aiko はその「ブルーノート」を使うことで、すごくソウルフルなサウンドを作り上げているんですね。

 もちろん、だからと言って、この歌が「ブルース」だとか、構造的にも精神的にも「ブルース」を目指しちゃった、っていうようなことではありません。今の多くのポップスや、流行のアカペラコーラスなんかは、このブルースのソウルに無意識に影響されているんだ、っていうことです。
 「なんかソウルフルなメロディを書こう!」って思った時に、そういう音を自然に使っているし、私たち聴く側も、自然に受け入れているんですね。

次に、もう少し詳しくブルーノートについて見てみましょう。
図2
図2

図2が、ブルースの音階です。

 正しい名前は、C-Blue Note Scale (シー・ブルー・ノート・スケール:ハ長調のドと同じ位置からはじまるブルーノートを含んだ音階という意味)と言い、長調の音階(スケール)の3・5・7番目(ミソシ)の音に♭がついています。これは、理論上のスケール(音階)ですので、普段多く使われているのは、もう少し音を少なくした図3です。

図3
図3

 ちょっとピアノで弾いてみて下さい。けっこうコテコテのブルースっっっっっていう感じに聴こえませんか?
 これがジャズはもちろん、R&Bや今のポップスの根底にあるサウンドなんだ、って言っても過言ではないです。
 ためしに、このスケールの音を、なんとなく口ずさんでみると、ブルージーな気分、というのがちょっと理解できるような気がしませんか?

図4
図4

 おまけですが、図4に、ブルーススケールで上がって下がるだけの単純な旋律をつくりました。上がるときと下がる時で、すこしだけ音が違いますけどほとんど限りなく生のブルーノートスケールです。
 が、こんな風にスウィングで上がって下がるだけで、ものすごくブルーなメロディができますよね。2拍目と4拍目にフィンガータップなんかを入れれば、そのまんま、アカペラソロのカッコイイフレーズになります。

 こんな風に、ブルーノートをつかって、なんかカッコイイ雰囲気を作っている歌って、他のJ-POP でもたくさんあります。みなさん、「ああ、これかあ!」って思う歌がいくつもあるんじゃないですか?

 アカペラコーラスがブームになる以前から、「ブルース」は、いろんなところで大きな影響を及ぼして来ました。アメリカの50〜60年代のロックンロールなんかも、白人たちが、エレキギター、エレキベース、キーボード(当時はハモンドオルガンとかローズピアノがすなわちキーボードでした)を使ってブルースっぽい音楽をやっちゃおう、っていうところから始まっています。

 かのビートルズの曲にもそういうエッセンスがたくさん出てきます。Drive My Car とか、DIZZY MISS LIZZY なんかは、典型的なブルース形式なんです。

 これからは、いろんなポップスを聴くときに、そういう細かいことをよ〜く聴いてみて下さい。聴き込んで、楽譜に表せない「節」をまねしてみましょう。

 今後の連載で楽譜の例が出てきたり、アレンジしたアカペラ曲の楽譜も出てきます。でも、そのメロディラインには、楽譜に現れていない音楽性が隠れているっていうことも忘れないで下さいね。

 で、楽譜のムコウにあるそれをみつけるための、日頃の音楽の「聴き方」のヒントが、今回のテーマ「どうしたらカッコ良くアカペラ・コーラスを歌えるのか」でした。

補足1・ブルースについてもっと詳しく知りたい人には、
【三井徹著「黒人ブルースの現代」音楽之友社】
が、お薦めです!

補足2・@ELISE で、ロージーのピアノ編曲版が発売されていますので、参考に見てみて下さい。ピアノだと、ブルースっぽいサウンドをこんな風に書くんだぞ、っていう見本みたいなアレンジですので。

補足3・聴くと良い曲ですが、洋楽なんかだと、「ミニーリパートン」のラヴィンユ ーなんかを聴いてみて下さい。小鳥のさえずりをバックに、シャララララ、シャララ ラララ〜、っていう有名な歌です。Lovin' you is more than just a dream come true...... の、just の「u」のところなんて、とってもブルーノートっぽくって、 たまらないサウンドです!

柴山拓郎さんの著書「アカペラ マル秘アレンジ」(絶版)

柴山拓郎のハモリ講座書名:かんたんすぎる!?アカペラマル秘アレンジ(CD付)
(人より“うまい”アカペラを目指す実践法)

編著者: 柴山拓郎

発行:シンコーミュージック

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著者プロフィール

柴山拓郎 柴山 拓郎(作曲)
 1971年東京生まれ。ポピュラー音楽からテクノロジー音楽まで 幅広いジャンルの音楽を越境する現代音楽作曲家。2000年から『@ELISE』にてJ-POPのピアノ編曲なども数多くこなし、同ページではハモリ講座を執筆、アカペラのアレンジ法に関する音楽理論をわかりやすく解説する。

 97年東京音楽大学大学院修士課程修了。作曲を西村朗、池辺晋一郎、湯浅譲二、遠藤雅夫の各氏に師事。93年第62回日本音楽コンクールに、94年秋吉台国際作曲賞にそれぞれ入選。また、秋吉台作曲セミナーで、C・チェルノウィン、G・シュテープラー、K・シムの各氏に作曲を師事する。96年より 、作曲家団体「深新会」に所属し定期的に新作を発表。98年には、古楽器奏者と作曲家から成るグループ「アルコバレーノ」の結成に参加、以降毎年古楽器奏者と共に演奏会を企画、古楽器のための作品を作曲する。また、同年より、日本を代表する打楽器アンサンブル、パーカッショングループ72のメンバーとして、作編曲や 楽曲解説の執筆の他、J.ケージ、E.ヴァレーズ等の演奏にも携わる。2000年、オルガンのための「Monologue」が、松居直美氏によりオランダ各地で演奏された他、同年秋には、アムステルダム旧教会にて同氏によりCD収録された。邦楽器への取り組みも多く、二十絃箏のための「monody(1999)」をはじめとし、これまでに日本音楽集団、松村エリナ氏、真鍋尚之氏等からの委嘱を受ける。

 2001年5月にリリースされたトランペット奏者 曽我部清典氏のアルバム「トキノコダマ」に独自の視点で編曲したビートルズの「with a little help from my friend」が収録されている他、ピアニスト門光子氏のCD「風の記憶」に、「哀歌(monody)」が、武満徹、藤枝守、三木稔、西村朗、吉松隆ら日本を代表する作曲家の作品と共に収録されている。2002年春 M-A Recordingからリリース、同年レコード芸術準特選版に選定された。同氏の次作アルバム「東方逍遙」では、アジアのポピュラーソングを透明感のあるサウンドで編曲する他、新作が収録され、2003年レコード芸術準推薦版に選定された。

 美術や空間におけるサウンドデザインの活動も活発に行い、2005年 NPO法人 芸術資源開発機構とのコラボレーションで、埼玉県立近代美術館のためのサウンドインスタレーションをコンピュータプログラミングにより制作する。美術作家井上尚子氏とのコラボレーションは10年に及び、ICC、スパイラル、Bankart等における同氏作品への音響デザインを多数提供する。2006年からは同氏とのユニット「Air Plug」として活動を改めて開始し、福島現代美術ビエンナーレに作品を出展。

 2002年から東京電機大学 理工学部 情報システムデザイン学系アミューズメントデザインコース助手として「作曲・音楽文化研究室」を主宰。電子音響音楽等テクノロジーが関わった新しい音楽の表現研究や制作指導を、技術指導にとどまることなく「テクノロジー・アート・情報・社会」等の多眼的視点から捉えた授業やゼミを展開、後進の指導にあたっている。

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